033 96.06.09 「梅雨に入った模様」

 昨日あたりから、上空から透き通った輝きが消え失せてしまい、今日の空はもう、深い白がすぐそばにあります。窓から見える隣家の紫陽花の色が、にわかに瑞々しい彩りを放っています。柔らかな空から、やがて霧のような雨が音もたてずに降りだして、私の心を濡らし始めることでしょう。
 あ、すみません。梅雨になったというので、ちょっと梅雨らしく憂鬱なそぶりをしてみました。しょせん馬鹿のやることなので気にしないでください。それにつけても、梅雨入りですね梅雨入り。にゅうばいっ、どんっ。除湿剤の季節です。洗濯物は乾きません。湿った約四十日間の始まりです。不快指数が高まる季節ですが、そんなことはほっといて、私は毎年、自分勝手に痛快指数というものを設定してます。梅雨の間は、毎日カレンダーに書き込んでます。ちなみに、去年のカレンダーを調べてみましょう。
 いやまあ、そのう、ほとんど毎日100でした。
 ううむ。ほんとに馬鹿だったんだ俺。
 でも、80の日もあったんだよ。ほんとだよ。
 ところで、「梅雨入り」は「つゆいり」と読みますね。けれども、「梅雨前線」は「ばいうぜんせん」と読みます。意識しないのに、自然にそう読んじゃいますね。そういう訓練ができてるんです。知らないうちに。
 すごいもんです、人間の頭脳というのは。任意の四つの文字を入力された頭脳は、いかなる根拠に基づくのか、はじめに後半の二文字を解析しちゃう。その結果によって、前半の二文字をどう読むか判断しちゃう。どうなってるんだろう。だいたい、その四文字をすくいあげる方法論がそもそもわからない。経験と学習の効果なのかな。意外に使えるもんですね、私の頭も。えらいえらい。
 「つゆ」と「ばいう」は、どう使い分けるのか。気象庁あたりなにか厳密な定義をしていそうだけど、情緒的なときには「つゆ」、情緒が介入しない現象的なものを表すときには「ばいう」ってことになるのかな。
 ま、とにかく、気象庁だか日本気象協会だかは、梅雨に入った模様と言ってます。もう、「気象庁は今日、関東地方の梅雨入りを宣言しました」とは伝えてくれません。昨日までは「そろそろ梅雨入り」と言っていたのが、今日になって「梅雨に入った模様」と言うだけ。哀しいことです。あの「宣言」ってやつは好きだったんだけどなあ。
 いろいろ複雑な御事情はございましょうが、復活してくださいよう。あとで訂正しても怒らないから。これ、このとおり。って、土下座してもしょうがねえか。
 実際、怒ったひとがいたんだよね。天候に左右される御商売の方々が、気象庁に文句を言った。宣言が外れたって。はあ。どうにも不思議な発想で、理解できません。結局、気象庁は嫌気がさしてやめちゃった。あれは嫌な顛末だったなあ。
 気象予報士は勝手に宣言しちゃいかんのでしょうか。宣言が駄目なら、声明とか表明とか言葉をかえちゃって。べつに構わないと思うんだけど、どうなんだろう。
 思ったよりも気象予報士はタレント化しなかったからなあ。よく外れるので定評があるんだけど面白い予報をする、みたいなひとが出てくるまでおあずけかな。「梅雨入りは、今度の日曜日ですね。宣言しましょう。日曜です。対抗は、月曜。日-月が固いところです。おさえに、日-土。今度の梅雨入りはこれでキマリ」とかね。他にも、占い師ふうとか評論家ふうとか、やりようはいくらでもあると思うんだけど。
 誰を信じるかは、視聴者が自分で選べばいいことなんだからさ。お願いだから、誰か宣言してください。

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