034 96.06.10 「噂の鼻パック」

 ずっと、寂しい思いを味わっていました。口惜しくもありました。血の滲むほど唇を噛みしめ、眠れなかった夜もあります。
 でも、今日からは違うんです。あの会話に入っていくことができるんです。僕も今日から鼻パック仲間。嬉しいなったら嬉しいな。
 「あんなに毛穴が汚れてたなんてね」「剥がした瞬間のすがすがしさといったら、もう」「自分が生まれ変わった気がする」「十年来の腰痛が治った」「寝たきりだったおじいちゃんが立って歩いた」
 明日からは、その会話に混ぜてください私も。今日、これから私はその資格を得るのです。
 ついに、入手いたしました。「ビオレ 毛穴すっきりパック」、ターミナルアダプタに匹敵すると、事情通の間ではもっぱらの噂だった品薄状態のこの品をついに手に入れました。「小鼻に貼って はがすだけ 毛穴の黒ずみ 一度ですっきり」と、言ってます。言っているのは、東京都中央区日本橋茅場町1-14-10、花王株式会社です。べつに、住所はどうでもいいですかね。
 小鼻の毛穴の汚れ、角栓というらしいんですが、この品はこいつを一気にとっちゃおうというものです。さあ、さっそく使ってみたいと思います。
 まず、洗顔しなければなりません。花王は、そうしろと能書をたれとります。すごい自信です。ふつうの洗顔では落ちない汚れを取るのだぞ、うふふふふほほ~い。と、暗に言っているのです。挑発してます。わかりました。洗顔してやろうじゃないですか。
 はあはあ。洗顔して参りました。マニュアルにのっとって、鼻は水でまんべんなく濡らしてあります。ここに、絆創膏状の「ビオレ 毛穴すっきりパック」を貼るわけです。
 貼りました。これから、10分から20分待たなければなりません。花王がそう申し述べておるのです。ただいま、ジブチルヒドロキシトルエンとパラベンが私の小鼻で活躍しとります。こんな得体の知れない薬品に、己の大切な鼻の今後を託していいのか。といった不安がもたげてくるのは否定できませんが、今はただ邪念を棄て、すべてを彼等に委ねるしかありません。ああ、どうなるのかなあ。
 ところで、私が使った洗顔料は「メンズビオレ」というもので、「毛穴の汚れスッキリ」と謳われています。成分表には、ジブチルヒドロキシトルエンとパラベンがしっかり記されています。はて、どうなっておるのでしょう。ま、消費者センターじゃないんだから、そんな細かいことをつっこんでもしょうがないですね。要は、この「ビオレ 毛穴すっきりパック」の効果がテキメンであればよいのです。
 さて、20分たちました。剥がしてみましょう。わくわく。
 こ、これはっ。
 ほんとだ。こりゃあすげえや。
 シートの裏側は、ミクロの剣山状態。汚れの針の山。快楽です。こんなものを目にして快楽を得るとは思いませんでした。気持ち良すぎる。
 いやあ、汚れてたもんですね、私の小鼻の毛穴。「メンズビオレ」でも落とせなかった汚れが、きれいさっぱり落ちました。まいったまいった。なんでまいるのかよくわかりませんが、いやはやもう、まいりました。
 10枚入りで、600円。1回60円の悦楽。毎日やりたいところですが、花王は週に1~2回にせい、と言っとります。頻繁にやると弊害があるらしいですね。
 しかし、きっと明日も貼ってしまうでしょう。あさっても、しあさっても。
 こらえ性がないもんで。

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