028 96.06.02 「鬱憤をこらえきれずに」

 林投手、というのは韓国の延世大の学生で、ハヤシさんではありません。リンさんです。かといって、下の名前がトウシュさんというわけでもないのでややこしい。投手とは野球なるスポーツの一種における守備という一局面での一選手の位置を示しておるわけで、そのような実はたいへん細かい分類がなぜか一個人の肩書として通用しちゃう状況ってのは、考えてみると不思議です。野球、浸透してるんですね。だから、この林仙東さんの就職問題が騒ぎになっちゃう。
 韓国野球界とダイエー・ホークスの間で花いちもんめをやった結果、本人が入団したかったダイエー・ホークスに行けなくなっちゃったらしいんですね、どうも。よく知らないんですが、林さんの単純な希望は叶えられない仕組みになっているらしいんです。自分達でつくって自分達で使うルールなんだから、FIFAみたいに事情に応じて好きなように変更すればいいのにね。ゑ? そもそも、ルールがなかった? あ、そうなんですか。そりゃまた、まぬけでしたね、どうも。
 それでまあ、林さんは「やけ酒」を飲んじゃった、らしい。「ダイエー入りできず、うっぷん」とかいう小見出しを従えて、「林投手やけ酒、壁殴り骨折」とかいう見出しが、本日の毎日新聞朝刊に踊っております。謎めいたスタンスです。面白がってるみたい。は? そんなふうに感じてしまうのは私だけなんですか。あ、そうでしたか。たははは。
 でも、ソウル支局の中島記者が書いた記事には「やけ酒」なんて言葉は出てこないんですよ。中島さんは「31日夜から延世大学近くで酒を飲み、うっぷんをこらえきれずに右こぶしでを壁を殴りつけたという」と伝えています。飲酒と鬱憤の放出との関連性は触れていませんよね。こういうのは「やけ酒」っていうのかなあ。私、ちょっと疑問です。「けっ、やってらんねえよな、酒でも飲むか」というように飲酒の動機が明白なのが「やけ酒」だと思ってたんだけど、違うんでしょうか。この中島さんの記事だけでは酒を飲み始めた状況がわからない。伝聞だし。はじめは和やかに楽しく飲んでたかもしれないよなあ、と私は思ってしまうんです。
 結果から判断して「やけ酒」と決めつけちゃっていいのかなあ。
 もっとも、こういった当て推量による心理描写のない記事ってのはあまりないですけどね。新聞は好きだもんね、心理描写が。たとえば、この記事の隣にはサンディエゴで銃殺された父子の葬儀の報道があって、「悲しみを新たにしていた」とか「声を震わせた」とか定番フレーズのてんこ盛り。報道される葬儀は、必ず「しめやかに営まれ」ます。ま、読む方も心理描写がないと物足りなく感じてしまうんで、しょうがないんでしょうけど。
 林さんは右手小指を骨折して、全治4週間。アトランタオリンピック出場は難しいようです。

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