103 97.05.16 「ワクワクプレゼント」
昨日5月15日は沖縄が返還されて25周年を迎えた日だったのだが、キリンワクワクプレゼントの締め切り日でもあったことは、あまり知られていないが事実である。
この企画は麒麟麦酒株式会社が今春の販売促進活動の一環として実施したもので、少なくともここに一名、その戦略に乗せられた者がいた。
この男は専用の応募葉書を入手し、「一本呑んでは馬鹿のため」と呟きながら応募シールを貼り付けていたのである。男が所望していたのは電子クーラーボックスで、1件の応募には12本の缶ビールを呑まなければならない。いや、応募シールは缶の外側に貼付されているので、購入しさえすれば別に呑み干す必要はない。だが、男はマロリー卿の血を引いているせいか、そこにビールがあれば呑むという特質を有しているため、結局のところはすべてを空缶へと変貌せしめるのであった。
2枚の応募葉書の桝がすべてシールに埋め尽くされたのは、男が1箱のキリンラガービールを購入してから十日程の後であった。しかし、男はすぐさまポストへは赴かなかった。男はこれまでの半生において幾多の大ボケをかましてきたが、やはりまたやってしまったのである。
「きーっ」
本日、そろそろ投函しようかと葉書を手にとった男は、逆上した。
「ばばばばかものっ。締切日は昨日ではないかっ」
24本の缶ビールは無駄になってしまったのである。二十四までを呑み干しや。
「んがーっ」
男は、葉書をくしゃくしゃに丸め、ごみ箱に叩き込んだ。
今回の失敗はわかりやすい。大概のひとはこの手の失態をやらかしている。まだ時間があるだろうとほっぽっておいたら、いつのまにかその時が過ぎていて悔やむことになる。どこにでもころがっている話だ。男もさほど深刻には考えない。
「ま、いいか。どうせ当たるわけないし、どうせビールは呑まなきゃならなかったんだし」
前者の理由はわかるが、後者のそれは謎である。
立ち直るのが早いのでも諦めが早いのでもない。なにかしら、ものの考え方が独特であるように思われる。それは、男の次なる行動によって判明する。
「これ、ネタになるな」
男がごみ箱からくしゃくしゃに丸めた応募葉書を取り出したこともまた、あまり知られていないが事実である。
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