051 96.07.17 「アトランタへの期待」

 マジック・ジョンソンとマイケル・ジョーダンは、バスケットボールをやっている。マイケル・ジョンソンはスプリンターで、マイケル・ジャクソンは歌うたいだ。みんな有名である。混乱する。しかし、アトランタにはこの混乱に輪をかける人物が登場するので、私は今からびびっている。マイケル・ジャクソンという人物で、このひとはブラジルの女子サッカー選手なのだ。もう、わけわかんない。いいのか、それで。それは、なんというか、人の道を外れているのではないか。アトランタに道徳はないのか。
 カタカナ表記のマジックといえばそりゃそうなのだが。ああ、またマジックなどと。ほんとにもう。
 この問題で苦労するのは欧米の翻訳小説を読むときだ。テロリストグループに、ジョン、ジョージ、ジョー、ジョニー。対する警察側に、ジェイムス、ジャクソン、ジョーダン。それぞれの妻や恋人たちに、ジェニー、ジェイン、ジュリア、ジョディ、ジャニス。姓と名が入り乱れ、更に愛称が絡む。にわかには性別の判断がつかないものもある。
 迫真の犯罪模様を息もつかせぬ筆致で描くサスペンスの金字塔! とか、言われてもねえ。読んでられませんよ。誰が誰やらわかんないよ、もう。池波正太郎方面へ逃避するしかない。すごすご。
 そういうとこに、たとえばウタ・ピピヒなどというひとが出てくると、嬉しくなっちゃうのだ。ウタ・ピピヒだって。えらいぞ。心が安らぐよな。ウタ・ピピヒだもんなあ。がんばれウタ・ピピヒ。このひとはドイツの女子マラソンランナーだ。2時間半にもわたって私を喜ばせてくれるというのである。いい心がけだ。あっぱれウタ・ピピヒ。すごいぞウタ・ピピヒ。もっとも、アトランタには出場するかどうかわからないらしい。そりゃないぜウタ・ピピヒ。
 他にも立派な方々は大勢いて、真夏のアトランタで大いに私を楽しませて下さる。まずは、オジョギョンを挙げたい。ロシアの男子柔道選手だ。得意技はオジョギョン投げ。うそ。柔道界には他にも逸材が多く、男子のハハレイシビリ、クロイトル、女子のテニョラ、ピエラントッチといった面々の健闘を期待したい。
 更には、スペイン男子サッカーのデラペニャ、ウズベキスタン女子やり投げのシコレンコ、エチオピア男子中距離のゲブレセラシェ、などなど。
 へんだぞ、君たち。応援してるからな。
 まだまだ他にも、無名の英雄はいるはずだ。灼熱のアトランタで、その面白い名をぜひとも誇示してほしい。
 さて、体操である。体操は名前に関して他の競技の追随を許さない一大特典を持っている。難度の高い新技を編み出すと、その人物の名が技の名になるのだ。トカチェフやベーレなんかがそうだ。古くは山下跳びがそうだし、意外にもモリスエという技もある。あの森末慎二がロサンジェルスで披露したものだ。それにしても、コバチはいいよなあ。好きだなあコバチ。鉄棒の技なんだけどねコバチ。今ならガラスの小鉢がもれなくついてます。
 今大会ではタナカという技ができるらしい。タナカはねえだろタナカは。そんなやつ出すなよ。つまんないじゃないか。体操選手は珍名さんでなきゃなれないことにしようよ、ねえ、そうしようよ。珍名さんがどんどん新技を開発する。味わい深い実況が聞けるよ、きっと。
 ムシャノコウジ選手、まずは順手車輪からテシガワラ。ここで、マツトウヤ。1回、2回。連続マツトウヤです。続いて、ダザイ。逆手に持ち代えて、ツブラヤ。更に、イノキ。次に、ベッショ。さあ、フィニッシュです。ショウリキからコヒルイマキ。そして車輪を1回、2回、3回。ムシャノコウジっ。決まったっ。決まりましたっ。10.0。10.0です。金メダルっ。ムシャノコウジ選手、金メダルですっ。
 ムシャノコウジ選手にはドーピングに気をつけて頂きたいと、切に願うものである。
 だから、そんな奴は出ないんだってば。

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