044 96.06.27 「O157の重大な欠点」

 まいりましたねどうも。病原性大腸菌O157。複数のひとびとを殺してしまったもんなあ。こういう、本来は狭い世界において分類に使用されていたに過ぎない数字が固有名詞化すると、突如として凄みを帯びるもんですね。B29とか0戦とかね。人を殺すと、なにやら恐ろしげなベールを身にまといます。たかだか分類番号あがりのくせに、その行状によって一躍ヒールになっちゃう。ひとつひとつの字がそもそも重要な意味を持っていないだけに、ふだん表意文字に取り囲まれている私達にとっては、かえって不気味に感じられてしまうわけですね。狂牛病のように具体的なイメージを喚起する文字列も恐ろしいもんですが、私はO157の無味乾燥な名前の方に恐怖を覚えます。
 O157のくせに、人を殺しちゃうんです。O157のくせにぃ。
 もっとも、分類番号が固有名詞化するとすべてが悪役になるわけじゃなくて、D51とか007などのようにヒーローになる場合もあります。憲法第9条、スーパー301条のように重みを持ったりもします。98のように元々は分類番号あがりで、あるときから自ら意識して固有名詞化の道を辿るといったケースもあります。再来年の98のCMは今から楽しみですね。あの猿は語呂合わせしまくるんでしょうか。更には、69の例があります……ううむ、これはちと、違うな。
 なにか重大な個性を発揮して分類番号は固有名詞化するわけですが、固有名詞の時代を生き延びると、いよいよ普通名詞化しますね。十八番あたりがそうです。
 O157がいったいどこまで猛威をふるうのかわかりません。その名は定着するのでしょうか。あくまでネイミングという観点から語りますが、Oがいかんと思いますね。Oが。0と区別がつきにくいのが最大の欠点です。Oと0。あなたのフォントではどうですか。最近では新聞はハイフンを挿入してますね。O-157。なんだか凄みが薄れてしまいました。
 数字が3桁というのもまずいです。冗長だし、憶えにくい。「え~と、ほらO~なんだっけ? あの大腸菌」とは、最近の日常会話ではよく耳にするところです。歪んだ歴史教育の成果によって、私達の頭脳は数字の並びはなかなか覚えられないように訓練されているのです。せめて2桁であればなんとかなったのに、と思いますね。
 結果的にオ~イチゴ~ナナというたいへん発音しにくい事態になってます。発音している時間が文字に比して長い。こういう言葉は市民権を得ないものです。こういう場合、私達には省略という先人の編み出した対応策があります。キムタク、ドリカムの類ですね。しかしO157にはこの知恵が通じません。元を正せば分類番号なので、そのすべてが語られてはじめて区別がつくものなのです。
 O157、たいした輩ではありません。以上のような理由から、私はそう結論するに至りました。
 至るなよ。

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