024 96.05.22 「迷走のスーパー」
あれから一ヶ月、心の傷もようやく癒えました。スーパー大黒屋特製のかごは洗濯物を満載して今日も活躍しています。
私は今日もスーパーで買物をしました。スーパー、とはいったいなんであろうか、と考えました。超、じゃないすか超。直訳すると、超、なんです。たかが超なんです。馬鹿じゃないでしょうか。チョーだって。釜山港に帰るのが関の山です。
あ。傷がぜんぜん癒えていないのを暴露してしまった。こらこら。だから、強がっちゃだめだっていうのにぃ。めっ。
で、まあ、まだ胸は痛むんですが、スーパーです。またまたスーパーが舞台になってしまうのです。生活臭を漂せてしまって申し訳ないです。
突然ですが、あなたはスーパーで謎の足跡を残していることはありませんか。あっちへ行ったりこっちへ行ったり、思いつくままに無駄な動きをしていることはありませんか。昨今の家計に関する緻密な計算、今夜の献立に対する周到な計画、自らの消費活動を鑑みた長期的な展望、といった様々な経済事情に思いを馳せることなく、行き当たりばったりに買物をすることはありませんか。
私はあります。あります、どころじゃなくて、毎回そうなんです。馬鹿なのでしょうがないんですが、情けないったらありゃしません。
スーパーの商品配置は計算しつくされていて、まず青果方面に誘導されることになっています。その後、鮮魚、精肉へ続くという黄金コースがあるわけですが、私は生来のあまのじゃくなのか、どうしても用意された誘導路に従うことができないんです。スーパーにおける落ちこぼれなんです。学生諸君はまだまだ未来があるので落ちこぼれとなっても救いがありますが、いいトシをしてこともあろうにスーパーで落ちこぼれちゃうとなると、これはもうどうしようもありません。救いようがないんです。決められた道を歩めない。落伍、頽廃、破綻、転落、絶望、といった方向へ止めどなく流れてしまうわけです。
具体的には、このような次第です。
お。大根が安いな。買お。で、この大根、どうしようかな。サラダと漬物と煮物、ま、こんなとかな。んと、サラダね、ドレッシングがなかったな。どこに置いてあるんだっけ。どこだどこだ、あ、ここにあったのか。ふむ。中華ドレッシングにしようか。そういや、カイワレなんかも乗っけてみようかな。野菜方面へあともどり。んんと、次はなんだ。漬物か。そういや、塩が少なくなってたな。どこに置いてあるんだっけ。ええとええと、ああ、ここか。おっと、ミョウガもいるよな。あともどり、あともどり。うわあ、ミョウガはやっぱり高いなあ。でも、買う。次はなんだっけ。煮物か。鶏肉と合わせようかな。そうしよう。どっちだ。ああ、ここか。あ。この手羽先は安いな。買お。ってことは、切らしてた黒コショウも買わなきゃ。どこだどこだ。ん。ここか。あ。なんだなんだ。粒コショウがないじゃん。あ、待て待て、煮物用の鶏肉だ。ええと、それはどこにあるんだ。おや、この醤油はやけに安いじゃねえか。買お。そういや、牛乳がなかったな。どこだっけ。ここか。あ、いけね、鶏肉だ。いいかげん、疲れてきたな。そうだそうだ納豆も買わなきゃ。それから、パン。あ、マーガリンも。あ、そうそう、ゴミ袋がもうなかった。あ。だから鶏肉だってば。そういや、大根も買わなきゃ。いや、待てよ、そもそも鮭の切り身を買いに来たんじゃなかったっけ。
頭のなかが大混乱になって、あっちへ行ったりこっちへ行ったりそっちへ行ったり、そのうちにどっちへ行っていいのかわからなくなっちゃう。誠にもって大騒ぎとなってしまうのです。
傍目にはほとんど法則性がないんでしょうね、きっと。無駄な動きばっかり。ブラウン運動をするスーパーの中の私。自分が次にどの売り場に行くか、考える頭がないんです。翻弄される迷走台風。ようやくレジに並んだと思ったら、買い忘れたものを思いだして、またまた流浪の旅へ。パドルに弾かれるピンボール。疲れます。
あなたも、スーパーにおいて人生の歩数を無駄に消費していませんか。私はしています。なおりません。この無駄な歩数の総計は、実に東京・大阪間に匹敵する距離に相当すると、私は思い込んでいます。なにしろ、馬鹿だから。
そうして、くたくたになってスーパーを出るわけですが、こらこら、だからカゴを持ち出すなというのにっ。
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