019 96.05.05 「日本人初のうんぬんかんぬん」

 土井孝雄さんという氏名を持つ方は数多くいらっしゃるかと思われますが、宇宙開発事業団に籍を置く土井孝雄さんはそんなに多くはないでしょう。更に、NASAの穴で宇宙飛行士としての特訓を受けている土井孝雄さんとなると、これはひとりしかいないものと思われます。日本人初の船外活動をする宇宙飛行士になるそうです。科学技術庁長官がそのような見通しを発表したそうです。
 まだあったのか、日本初のネタは。次はもう船長しかないのではないかと思っていたんですが、いやあ、宇宙開発事業団のネタは尽きまじ、って感じですね。妙に笑えます。誰が宇宙に行っても、み~んな日本人初。日本人初の宇宙飛行士・毛利さん、日本人初の女性宇宙飛行士・向井さん、日本人初のミッションスペシャリスト・若田さんときて、今回の土井さん。その次には日本人初の二度目の搭乗者・向井さん、というこじつけネタも控えてるみたいです。
 なぜそんなに日本初にこだわるんでしょう。予算確保のために話題性が欲しいという切実な問題はあるんでしょうけど、TBSに先を越されたのがトラウマになってるんじゃないですか。秋山さんですね。宇宙開発事業団はそれがよっぽど悔しかったんじゃなかろうかと、私は邪推してるんですけどね。やっぱり宇宙空間に乗り出した最初の日本人がいちばんインパクトがあるもんなあ。宇宙開発事業団はその消せない事実の記憶を薄れさせたいがために、日本人初の連発を企てている。そんなふうに思えてしまうわけですよ。初回の大量失点を挽回すべく毎回得点で地道に盛り返そうとはするものの点差はまだまだ大きい、ってなところですか。
 報道される日本人初という言葉の裏側に、宇宙開発事業団の強がる声が聞こえてしまうわけですよ、どうしても。「どうだTBS、我々は高度に訓練された宇宙飛行士をあの広大な宇宙空間に送り出しているのだ。ただ窓の外を眺めて感想を述べてた奴とは違うのだ。貢献だ。貢献してるのだぞ。そのへん、わかってるのか、おい。我々は、あんたがたが記者をひょいと乗せてしまう前から人員をNASAに派遣していたのだ。訓練を積ませていたのだ。それを、なんだというのだ。宇宙船のことなどなにもわからないシロートを、いきなり乗せたりして、それでいいと思っておるのか。え、どうなんだ、おい」
 でも、日本の科学年表で最初に登場するのは、やっぱり秋山さんなんだよね。悲運の宇宙開発事業団。
 もはや、これまでのイキサツを粉々に打ち砕くほどの衝撃で決定的に注目を浴びるとすればこれはもうひとつしかないわけで、宇宙開発事業団、実はそれを待っていたりして。いや、まさかそんなことはないでしょうが。
 でもやっぱり、日本人初の宇宙空間での死者に勝る注目度は、これはちょっと他にないよなあ。

←前の雑文へ目次へ次の雑文へ→
バックナンバー 一覧へ混覧へ