080 96.11.21 「野暮」

 柿ピー、と、とりあえず呼称しましょうか。「品名」ってことになると、各社、「柿の種&ピーナッツ」とか「ピー&柿」とか、商標戦線に敗れた呼び名があるんですけど。要するに、柿の種とピーナッツが入り交じったあのオツマミですね。カワキモノの王道を行く、例のアレです。
 一方ここに、もちろん仮名ですが杉田玄白さんという人物がいます。杉田玄白さんは、柿の種とピーナッツの適性比率について熱く語るのでした。5対1が不惑を迎えた杉田玄白さんの理想値です。よもや間違える方はいないと思いますが、5が柿の種です。当り前です。柿の種の比率が多くない柿ピーのことはここでは考えません。ピーナッツのほうが多い魯鈍な柿ピーには、破防法を適用して、いったいこの世の正義とはなんなのかをこき知らしめてやっていただきたいと思います。
 杉田玄白さんもチカゴロノワカイモンに対してお怒りです。2対3くらいがよいのではないか、そのような物事の本質をわきまえない愚鈍な見解をあっけらかんと吐露して悪びれない不逞の輩が、温厚な杉田玄白さんの苛立ちを掻き立てているというのです。問題です。許せません。私としても怒りを禁じ得ません。坊や、いったい何を教わってきたの、と凄んでみたい所存です。私だって私だって、疲れるわ。
 松方弘樹はピーナッツばかり食べて菅原文太にたしなめられていましたが、当然です。ピーナッツはあくまでおまけなのです。カード欲しさに仮面ライダースナックを購入して食べずにドブに捨てるのは人の道に背く行為です。って、同世代の人にしか通用しないタトエなんかしてますが。
 そのようにして、杉田玄白さんと私はひとしきり亡国の徒の行く末を嘆いたわけです。しかしドライ論争という問題で、杉田玄白さんと私は鋭く対立するのでした。
 ドライマティーニというカクテルにおけるあの論争と同質の問題が、意表をついて柿ピーにおいて杉田玄白さんと私の間で再燃したのです。
 件の論争は未だに決着していない模様で、今のところベルモットの瓶を眺めながらストレートのジンを飲んでいたチャーチルが最もドライなマティーニを飲んだということになってます。このあとに、ベルモットを思い浮かべながらストレートのジンを飲んだ人のマティーニが最もドライであるという論が出現するわけですが、いかにも作り話めいていて今ひとつインパクトがありません。
 まあチャーチルのことはどうでもよくて、柿ピーです。杉田玄白さんも私も、ドライ柿ピーを嗜好してはいます。しかしいくらなんでもピーナッツを眺めながら柿の種をむさぼり食ったら、それはやってはみたいけどやっぱり単なる馬鹿なので、とりあえず比率論争に花を咲かせたわけです。
 私の主張は3対1です。ウェット派といえましょうか。やっぱりある程度のピーナッツは混ざっていてほしいものです。けれども、ドライ派の杉田玄白さんは5対1の線を譲りません。論争は白熱しました。一時はお互いの胸ぐらを掴み合い、「表へ出ろ」といった発言も噴出するという迫真の場面も迎えました。
 実際のところは、柿ピーごときでなにを熱くなっているのだという周囲の声に、杉田玄白さんも私も白けてしまったという顛末ですが。
 核心を尊重するひとにはかないません。
 杉田玄白さんも私も遊んでるんだからさ、水を差さないでよ、もうっ。
 仲裁に入ったつもりの人は、間をとって4対1ではどうかと言っています。
 どっと疲れた杉田玄白さんと私は、お互いに目くばせしながら、内心呆れ果ててその仲裁案に同意しました。
 つもりの人は、もちろんその目くばせには気づきません。気づくようだったら、割って入ってはこないから。
 立派な意見を吐いているつもりの人には、困っちゃいますね。ほんとにもう。
 最後に声を大にして言っておきますが、柿ピーの適正比率は3対1です。
 決まってるじゃないですか。

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