059 96.08.16 「私はカイワレを食べたい」

 菅直人厚生大臣(以下、「菅ちゃん」と呼ぶ。)が今朝の新聞の第一面で、カイワレ大根を食べている。昨日のニュースでも食べていた。何回食ってるんだ。おいおい。
 いいなあ、菅ちゃん。カイワレ大根を食べることができて。羨ましいなあ。俺なんか、カイワレ大根を求めていったい何軒のスーパーを巡り歩いたことか。
 いいから、売れ、俺はOなんたらは気にしないし、たとえ発病したってどこで入手したかは黙秘するから、あんたがたに迷惑はかけないから、なあ、頼むよ、倉庫に隠してるんだろ、売ってくれよう。
 まさか、野菜売り場でそんなダダをこねたりはしないが、三面怪獣ダダ。とにかく、ふつふつと湧き上がる理不尽な怒りを抑えつつ、幻のカイワレ大根を探し求めてスーパーの野菜売り場を徘徊する昨今だったのだ。
 親しい人々にも秘匿していたのだが、実は私はカイワレ大根中毒者なのだ。カイ中だ。カイワレ大根を食べないと生きていけない哀しい体質なのだ。好んで毎日食していたところ、いつしか中毒者になっていた。禁断症状も出る。カイワレのことばかりを考えて、夜も眠れない。やっと眠れたと思ったら、カイワレ大根の海で溺れ死ぬ夢をみる。
 南野陽子も被害者かもしれないが、私だって被害者なのだ。南野さん、ともに手を取り合って頑張って生きていこう。取り合わないって。
 仕方がないので、自分で育て始めた。幸い、カイワレ大根は10日ほどで収穫できる。芥子を育てる人々の気持がわかった。これはハマる。惑溺する。はやく大きくならないかなあ。帰宅するや否や、まず育ち具合を確認する。在宅中には一時間毎に様子を観察する。産室の前でうろうろする夫のような心境だ。いてもたってもいられない。
 まだ収穫までには間がある。その間に、禁断症状のあまり私は犯罪を犯してしまうかもしれない。心配だ。そうなったアカツキには、この一文を関係当局に提出して犯行時の私が心神耗弱状態にあったことを立証して頂ければ幸いだ。
 菅ちゃんが食べていたカイワレ大根は「農水省の売店を通じて埼玉県から入手した」らしい。厚生省ばかりではなく、農水省まで動いたらしい。
 私にはそんな力はない。菅ちゃんずるいぞ。「3パック分をほおばった」というではないか。食いすぎだ。俺にも分けてくれ。俺と菅ちゃんの仲じゃねえか、って、私は何者なんだ。菅ちゃんにとってはただのパフォーマンスなんだろうが、私の場合は食わないとちょっとまずいことになるのだ。「茨城県取手市でスーパーに強盗。カイワレの禁断症状と、犯人は意味不明の発言」などと新聞の見出しが脳裏を横切る。
 菅ちゃんの行為で気になるのは、ドレッシングの存在だ。あれはマコーミックのしょうゆドレッシングだ。いいのか。キューピーは怒らないのか。コダックとフジの例もある。ひょっとすると通産省も介入して、摩擦の発生を未然に防ごうというカラクリなのか。別の容器に移し換えれば済むことなのに、わざわざカメラに写るようにマコーミックのドレッシングを置くというのは、やはりなにか意味があるのか。
 カイワレ大根を食うのも大変だ。
 菅ちゃんも大変だろうが、私も大変だ。
 食べたい。

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