009 95.11.19 「ビールの名前」

 そこまでやりますか、そんなの売れないよきっと。
 鍋に合うビールとかいうやつですね。売れたら、ちょっと悲観的になっちゃいますよ私。日本で生産発売しているビールというのは実はどれもこれもたいしてかわりばえしない味なので、なにか差別化しようっていうんでしょうけどね。
 季節に頼ったあとは肴ときたかあ。ううむ。それは思いつかなかったよなあ。おせんべから塩辛まで、たいがいの食べ物をクリアしちゃうのがビールのよさだと思うんだけどな。まあ、問題の鍋うんぬんっていうビールは一連の冬物のバリエーションのひとつなんでしょう。冬物語とかの一派ですね。
 要するにネイミングの観点から鍋という言葉が出てきたんでしょう。想像ですが。つまり、冬だと。酒飲みにとっての冬の季語が鍋というわけですね。夏における枝豆的な存在が、鍋だと。ずいぶんスケールが違うけど。
 たしかに、鍋という言葉にはなにかこう、懐かしさをかきたてるチカラがあります。安らぎを与えてくれます。その湯気が脳裏に浮かぶと、自然と口元がほころんでしまいますね。北風が吹きすさぶ街を歩いていた旅人のコートを脱がせるのは、やはり鍋ということになりましょう。囲むという動詞を伴う冬の実力者です。
 けれども、だからといって季節物のビールのネイミングにもってくるとはなあ。大久保まで出して。
 味のほうはどうかというと、特に特徴はないですね。ま、日本のビールはどれを飲んでも似たような味です。み~んなおんなじ。どれもそれなりにうまいですけどね。
 もう、味で勝負はしてません。宣伝が勝負です。ポイントは第一にネイミングで、第二にうまさの理由付け、三番目がCM作りですね。その典型が、一番絞りです。最初に絞った麦汁がうまいと言われたって、そんなの工場のテイスターにしかわからないですよ。でもそう宣伝されて飲むと、「ああ、やっぱり一味違うなあ」とか言っちゃいますね。焼肉屋でカルビを注文したひとがいたらすかさず「ほ、骨つきっ」なんてことも言っちゃいます。乗せられてるんだけど、乗せられたからといって別に困ることもないし。
 だまし方が素晴らしければ、乗せられますよ私は。どんとこいっ。
 で、次に出てくるビールはいったいどんなものでしょうか。ドライ・一番絞り・焙煎・アイスと続いてきた製法絡みの新製品となると、これはもう専門家じゃないので予測できるわけがありません。味の面での期待は常にここにあるんですけどね。焙煎、最近おとなしいけど、ハートランドの道を歩んでしまうのかなあ。私が好きになったビールは、いつもほどなくして市場から消えていきます。
 それでネイミング予想方面へと逃げていくわけですが、季節物の傾向はまだ続くでしょう。散文化の道もしばらくは途絶えないでしょう。かつての容器形態競争を思わせる本筋を無視した状況になっていて、これはこれで面白いことになってます。
 来春は楽しみです。ここは完全にネイミング戦争になるでしょう。すでに今春、春一番というおいしい言葉が使われてしまいました。次なるキイワードは「花」でしょうか。
 夏にも期待がかかります。季節物を出す必要がない夏に限定発売しても売れるビールが出るかどうか。太陽と風のビールとかいう、おずおずと様子をうかがっているかのような及び腰の戦略は通用しないことはすでにわかっています。ずばり夏という字を前面に押し出した新製品は出るか。「夏-1997-」楽しみです。
 もうひとつ、この国土には梅雨という第五の季節があります。個人的には、この一カ月半の短期決戦には最も期待してます。「雨の日のビール」どっか出さないかなあ。出さねえか。
 ところで、アサヒの黒生はうまいよ。

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