トゥールーズ瞬間滞在記《6》
6月16日(火) 十七時間の一日
いつのまにやら七時間を返済して、ふと気づけば蒸し暑い成田空港午後三時。川村一家よ、さらば。縁あらば、また会おう。
帰途、カーラジオのニュースを聞くと、帰国ラッシュが始まったと成田空港からのレポートが伝えられている。フランスからの帰国、である。トゥールーズのミュニシパル・スタジアムの中であるいは外で、あのゲイムを観た人々たちの帰国だ。そういえば到着ロビーに取材陣が溢れていた。
かくして、私は歴史の目撃者となった。
遠い将来、そのときテレビジョンというメディアが生き長らえているかどうかわからないが、たとえば『世界一に至る遥かな道のり ~日本代表、ワールドカップ挑戦の歴史~』といった番組が放映されたとしよう。その最初の映像は、トゥールーズのあのゲイムである。私はここぞとばかりに若者達に自慢するだろう。
「わしはな、あのスタンドにいたんじゃ。この目であの試合を観ておったのじゃ」
そんな歳になっても、話をつくる癖は治っていないから、たわけたことを言い募るだろう。
「フランスへ行くなどということは思いも寄らない時代でな、たいへんな覚悟で出掛けたもんじゃよ。ほれ、見い。スタンドには日本のサポーターばかりじゃろう。あれはみんな、もはや帰国できない覚悟を決めておったんじゃ。熱い時代だったんじゃ」
嘘つけ。