93/01/08 「正しいウイポの飼い方」

 みなさんこんにちは。「ペット万歳」の時間です。本日は、都会の孤独な若者の間で
静かなブームを巻き起こしているウイポの飼い方について、学んでみましょう。御指導
くださいますのは、ウイポを飼って三十年、ウイポ界の生き証人として誉れ高い新高山
登先生です。先生、よろしくお願いします。
「うむ」
 早速ですが、先生、ウイポを飼ううえでいちばん大切なことはなんでしょうか?
「自己嫌悪、だな。これに尽きよう」
 は。そのようなものが必要になりますか。
「これは重要だぞ。ウイポは飼主が自己嫌悪に思い悩んでいる姿が大好きなんだ」
 ははあ。ずいぶん悪趣味な動物ですねえ。
「わははは。姿かたちからして、悪趣味だからな」
 そういう飼主の様子を見ると、ウイポはどのような反応を示しますか?
「喜ぶぞお。ぽいうぽいうと鳴きながら部屋じゅうをはしゃぎまわる。そりゃもう、可
愛いもんだよ」
 そういうもんですか。
「こたえられんぞ。こちらが落ち込めば落ち込むほど、喜んでくれるんだ。わしもこの
子が喜んでくれるならなんでもするぞという気になって、頑張って落ち込むんだ」
 どうも想像がつきませんが。
「君も飼ってみれば、この倒錯した感情がわかるよ。わははは」
 ええと、ところで、ウイポはどんなものを食べるのですか?
「オムライスだな。毛ガニも好きだ」
 …………。
「酒もよく飲むぞ。個体差はあるが、一般的にスコッチを好むな。ウチの子はオールド
パーがお気に入りだ」
 ペットのくせに贅沢ですね。
「可愛いウイポのためなら気にならんよ。それから、ペットのくせにとかいう言い草は
嫌うから使わんほうがいい。なかなか気難し屋なんだ」
 ゑ? 人間の言葉がわかるのですか?
「わからんはずだが、そういう言葉には敏感なんだ」
 なんだか、すごく嫌な奴に思えてきましたが。
「わははは。誰でも最初はそう言うんだ。しかしいつのまにかとりこになっている」
 そんなもんですかねえ。
「お。君はわしを信じないのか」
 いえ、そんなことはありませんが。
「では、実物を見せてやろう。カレンちゃ~ん、いらっしゃ~い」
『ポイウッポイウッ』
 あっ。これがウイポですか。
「わははは。可愛いだろう」
 は? これが可愛い? この極彩色のおぞましい動物が?
『ポポポポポイウッ!』
 あたたたたっ。先生、ひっかきましたよ。
「君が失礼なことを言うからだ」
 ひどいなあ。しかし、なんといいますか、見れば見るほど、すごい、ですねえ。
「言葉に困ってるようじゃないか」
 ええ、まあ。ええと、この子はいくつですか?
「800歳くらいかな。源頼朝が飼っていたウイポなんだ」
 はあ?
「確認できている最年長ウイポは1356歳だぞ」
 どうも信じられませんが。
「嘘だ」
 …………。
「わははは。三年前に故郷の裏山で親からはぐれて泣いていたのを拾ってきたんだ」
 それでは、先生。そろそろ時間もおしてきましたので、本日はこのへんで。
「なにっ。話はこれから面白くなるんだぞ。待ちなさい。君にウイポの素晴らしさを教
えてあげよう。そもそもわしが初めてウイ」
 本日はたいへん有意義なお話を聞かせてきただき、誠にありがとうございました。
「ポと出会ったのは、十七歳の春にとある女性に失恋したときのことだったんだ。とて
も美しいひとでなあ、わしは心底惚れて」
 みなさんもウイポを飼ってみてはいかがでしょうか。
「おったんだが、あななたのようなしつこい男性は嫌いと言われてなあ。わしは」
 特にしつこくて自己嫌悪に陥りやすい方には最適のペットだと思います。
「つくづく自己嫌悪に陥ってしまったんだ。そのときわしの目の前に」
 それでは「ペット万歳」を終わります。
「現れたのがウイポだったというわけなんだ。おい君、聞いているのか」
 ではまた来週。
「おいっ」

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