12月20日 不覚の夜
だいぶ具合がよくなった。
店を開けることができる。麗子は渋い表情を浮かべていたが。
店に向かう途中の歩道で、ばったりと常連に出くわした。
仕事中らしい。顔つきが全く違う。弛緩していない。
そういう印象を正直に告げると、彼は苦笑した。しごとやんなきゃ、うまい酒も飲めないよ。
そういうものなのだろう。酒場用の顔では会社勤めはできない。
今夜は課内の忘年会だから、そっちには行けないよ。彼が言う。
来たいときに来てくれればいいと、私は答えた。実際のところ、彼は私の店に入り浸っているのだが。
掃除に来てくれる篠田さんのお小言を聞きながら開店の準備をして、いつもより早めに店を明ける。早々に訪れた川名さんと風邪の民間治療法についてすこし話す。
大過なく営業を終えた。
私の部屋の前で、麗子が待っていた。凍えている。私を気遣っているらしい。
もう、いちいち返さなくていいから。私は思わずそう言って、合鍵をあげてしまった。
私の風邪はまだ完治していなかった。熱っぽかった。
不覚だった。きっと後悔するだろう。
麗子は、喜んでいる様子だ。押し隠したって、わかる。
不覚にも、私は、落ちた。これで決まり。後悔と、それに優る安堵。
考えてみれば、不覚の連続でここまで辿り着いたわけだが。