12月14日 緑色のカクテルの夜
先日利き酒をした面々のひとり、カジキさんが女性を伴ってやって来た。他の二人も居合わせており、カジキさんは冷やかされた。
どういう風の吹き回しで。私としても、常套句を口にせざるをえない。
実際のところ、驚いた。いつもひとりきりで現れて黙然とフォアローゼスを啜っているカジキさんと、彼の傍らで穏やかな笑みをたたえている小造りな顔立ちの女性とが、どうもうまく結びつかない。
結婚しようかと思って。もごもごとカジキさんが言う。
他の二人が、おめでとう、と言った。二人はすぐに話をまとめ上げ、カジキさんにフォアローゼスの新しいボトルを送った。
カジキさんは、そのいかつい容貌にそぐわない、はにかんだ笑顔で、二人に礼を述べた。
乗り遅れた私は、カジキさんの婚約者に聞いた。なんでもお好きなものをどうぞ、私からのお祝いです。
ありがとう、透明な緑色のカクテルをください。彼女は、はきはきとした口調で言った。瞬時も考えなかった。私は、好感を抱いた。
かしこまりました。私は答え、緊張した。カクテルの選択を任せられるのは、いつでも勝負を挑まれている心地になる。
私は、カルーソーに決めた。
おいしい。と、彼女は言ってくれた。私は、ほっとした。
なんという名前のカクテルですか。彼女が聞く。
私は束の間、思考し、アイズ・オブ・グリーンです、と答えた。カルーソーでは、どうもぱっとしない。
騙されるなよ。カジキさんが横から口を挟んだ。そんな名前はでまかせだからな。
私は大げさに嘆息した。やれやれ。せっかく、ひとが雰囲気を盛り上げようとしているというのに。
彼女は、きょとんとしている。
そんなやりとりを眺めていた他の二人が、声を出さずに笑っている。