12月9日 利き酒の夜


 常連客が三人。バーボン派ばかり。
 ふとしたことから、利き酒をしようということになった。いつもは黙りこくって飲んでいる面々だが、バーボンが話題になると、とたんに饒舌になる。

 まずは、フォアローゼス、I.W.ハーパー、ジムビーム、ワイルドターキー。最初にボトルを見せてから、彼等の目に触れないように注ぎ、それぞれの目の前に四種類のグラスと水を入れたタンブラーを並べた。
 これくらいのポピュラーな銘柄ならば、私にも労せずに当てることができる。三人とも、軽々と飲み当てた。

 次に、ブラントン、エバン・ウィリアムズ、オールド・グランダッド、メーカーズ・マークで試した。私はかろうじて当てられるはずだが、答はおそるおそる口にすることになるだろう。彼等も同様で、私が銘柄を発表すると、口々に自信がないと言い募った。
 それでも挑戦するところが、可愛い。せっかくだから賞品を設けようということになり、敗者が勝者に対して勝者の好きな銘柄のボトルを贈呈することが決まった。
 一気に二十四杯の売り上げがあり、そのうえボトルまで入れてもらうのでは申し訳ない。私は、敗者が負担するボトル代金の半分を私のポケットマネーから提供すると申し出た。

 三人は神妙な顔つきでグラスを口に運ぶ。繰り返し味わい、自信なさそうに回答した。
 ブラントンとオールド・グランダッドを当てた一人が勝者となった。あとの二人は どちらも一種類を当てるに留まった。やはり、難しかったようだ。
 勝者は、ジムビームを得た。普段は、ターキーを愛飲しているのだが。

 それにしても、三人とも、強い。短時間に立て続けに八杯だ。それまでにも、各々きこしめしている。私は感心したが、実はそうでもなかった。勝負が終わってほっとしたのか、三人ともいきなりただの酔っぱらいと化した。


扉へ | 次の夜へ