12月11日 セネガル土産の夜
矢野さんが現れた。私は、酒棚の隅から彼のメーカーズマークを引っ張り出した。
五ヶ月ぶりか。ラベルの端に自らが書いたメモの日付を読みながら、矢野さんは感嘆した。
今回はどこへ行っていたのかと聞くと、セネガルの方だと答えた。矢野さんが「の方」と言うときにはその周辺数カ国が含まれる。写真を撮ったりするのが矢野さんの仕事だ。「たり」の方が多い、と矢野さんは笑う。
今回の土産は、怪しげな図柄のタペストリーだった。私は、広げてみた。
矢野さんは期待を募らせて私の様子を伺う。
私は、力なく首を振った。
だめか。矢野さんの面に失望が浮かび上がった。
すみませんね。私は含み笑いをしながら謝罪した。
私の店の調度品を贖なうのが矢野さんのライフワークだ。海外から帰ってくる度に、現地で買い求めた謎の品を持ち込んでくる。ありがたいことだが、惜しむらくは趣味が悪い。
私が採用したのは、一度きりしかない。ポルトガル製の壁時計だったが、壁にかけて一年ほどした頃に酔った客が誤って壊してしまった。
矢野さんはボトルを手に取ると、ラベルに「タペストリー、ボツ」と書き込み、今日の日付を書き加えた。