12月7日 商談を聞く夜
バーボン、ダブル、銘柄は任せる。
その小柄な初老の客は、それだけを言うと、携帯電話をかけだした。
ブローカーというのかブローカーまがいというのか、熱心に商談をしている。次から次へと電話をかける。一通話に要する時間は短い。てきぱきと処理していく。彼が口にする金額は私の経済観念とあまりにかけ離れていて、私は呆然とするばかりだ。
飲むピッチもはやい。空になったグラスを片手で振って、催促する。私はひっきりなしにフォアローゼスを注いだ。
彼は酔わないのだろうか。平然と、商談を重ねている。
他には常連客が二人いたが、商談の声がさほど大きくないせいか、特に気にしている様子はない。うるさく感じているようだったら、私になんらかのサインを送ってくるはずだ。
小一時間ほどで彼の商談は終った。
ここはいい店だね。ほとんどボトル一本分の代金を支払いながら、彼は言った。また利用させてもらうよ。
なんと答えていいかわからず、私は会釈で応えた。利用される、のか。あまり来て欲しいタイプの客ではないのだが。
もっとも、他の客の妨げにならない限りこれほどありがたい客はなく、私としては当惑するばかりだ。
じゃあ、また。そう言って、彼は出て行った。
複雑な気分だ。