12月5日 生暖かい南風の夜
雨混じりの、妙に生暖かい風が南から強く吹いていた。
開店前に鏡を覗くと、髪に枯れ葉がひっかかっている。手にとってみると、欅の枯れ葉だった。
何の気なしに、カウンターの隅に置いた。
それが頭の隅に残っていたのか、訪れる客のコートや髪がやけに気にかかる。意外に多くの客が知らず知らずのうちに枯れ葉を運んでくる。私はたちまち目を止め、注意を促してしまう。自分でも目敏いなと思う。なぜ、そんなことが気になるのだろう。
そんなふうにして、カウンターの隅にささやかな枯れ葉コレクションができた。
やはり、欅が多い。公孫樹、楡、桜、が続いた。柏の葉を持ち込んだ女の子もいて、周囲の客から喝采を浴びた。彼女はしばらく当惑していたが、やがて事情を呑み込むと誇らしげな表情を見せた。
取るに足らないが、共通の話題がうまれた。
小学校の理科の時間。木登りの記憶。O・ヘンリ。ふだん寡黙な客が思いがけなく饒舌になったり、植物に関する意外な博識を披瀝する客が出現したりする。たまには、こんなほのぼのとした雰囲気も悪くない。
季節にそぐわない南風が枯れ葉に身を委ねて、和やかな空気を送り込んできた。
時には、不意に暖かい夜も訪れる。