12月4日 スペードの4の夜


 トランプが二組、カウンターの隅に置いてある。常連客の暇潰し用だ。
 大概の客はソリティアをやる。バーに来てババ抜きをやる人は、あまりいない。

 ソリティアにも様々なやり方があるらしいが、私はひとつも知らない。占いもあるらしい。ほろ酔いになった客が余興で、キタちゃんの運勢を占ってあげようと言い出したときだけ、ソリティアは私に関与する。

 常連のタクシードライバーが、そういうことを言い出した。彼は、金銭運と女運、どちらを占おうか、と聞く。
 束の間、考える。どちらもあまりよくはない。悪くもないが。
 金銭運のほうをお願いした。身につまされる結果が出た場合に、女運だと寝覚めがよくない。

 彼はカードをめくり始めた。若い頃はあまりよくなかったみたいだね、貧困というほどではないけど。彼が御神託を宣う。そのとおり。私はうなずく。
 中年になると、ああ、これも同様だね。彼は笑う。彼の卦もなかなか捨てたものではない。私は、またうなずく。

 彼が最後に表にしたカードは、スペードの4だった。晩年もまた同じ傾向だね、一生を通して金銭運はいまひとつよくないよ、しかも波がない。彼は、苦笑した。
 結構な結果だ。

 彼はカードを切り、自分の運勢を占いに戻った。明日の売上でも占っているのだろう。あるいはただの暇潰しかもしれない。

 私は年末の宝くじを当てて彼を驚かせてやうかと考えながら、彼のグラスを新しくした。


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