12月3日 勝負の夜
同僚らしき若い女性がふたり。職場の宴のあとらしい。謎の理不尽な慣習に従ってお酌などをして回った疲れを癒している。
カラオケになびかずに、カクテルを嗜んでくれる。
それだけで、私は嬉しい。
ふたりがこの店に来るのは、初めてではない。上客だ。
彼女たちは、からっとしている。上司にお酌をして回った自らの行為について愚痴らない。その折の上司の挙動の物真似を交えて、つまらない習慣を笑い飛ばしている。
そして、ふたりともそんな話はすぐに打ち切ってしまい、春にどこへ行くかを屈託なく話している。ニューカレドニアが有力候補らしい。
彼女たちは、率直で、明るい。一杯目に自分達が指定したカクテルを飲みほしたあとで、こういうカクテルが飲みたいと具体的に要求してくれる。たとえば、ラムベースで甘さは控え目で透き通った色のカクテルを飲みたい、と、言ってくれる。好奇心を露にして、私のお手並み拝見とばかりに目を光らせる。
願ってもない。私の職業意識が、喜んでくすぐられたがる。
私は、要求に応じたつもりのカクテルをさしだした。それはそれで、勝負だ。
ちょっと甘いわね。そうね、もっと締まった感じだといいのに。
あっけらかんとふたりは感想を延べ合う。
では、こういうのはどうでしょう。私は躍起になって、また新しいカクテルに挑む。楽しくはあるが、緊張する。
頼もしいお嬢さん達だ。酔って乱れないのも嬉しい。
平然と、私がつくるカクテルを純粋に味わってくれる。
五杯目でやっと、おいしいとの言質を得た。前回はたしか三杯目だった。
綱渡りの勝利だった。