11月25日 暇な夜
常連の客がふたり。どちらも物思いに耽りながらボトルキープのバーボンを飲っている。私にはたいした仕事がない。どうにも手持ち無沙汰だ。
暇に飽かせて、ベルエールをつくってみることにした。酔狂な客がオーダーするかもしれない。とりあえず手の内に納めておくにこしたことはない。
今年のサントリー、カクテル・オブ・ザ・イヤー。いずれは大阪まで本物を味わいに行かなければならないが、とりあえずのところは発表されたレシピを鵜呑みにするしかない。林檎がうまく蝶の形に切れず、難儀する。
私としては、添えるフルーツに凝るのは好みではない。何度か試作した結果なんとか格好がつき、さっそく常連のふたりに試してもらう。むろん、お代は頂かない。
私も試してみる。思い描いていた通りの味だ。
甘ったるい、好みではない。常連ふたりの見解も一致した。ふたりともバーボン派であるが、信用していい舌の持ち主だ。予想通りの感想で、申し訳ない気持になる。
お詫びの印に、それぞれのボトルとは別に御両者にブラントンをダブルで差し上げる。
カクテルは雰囲気を味わうものだから、味だけを取り上げてあげつらってもさしたる意味はないのだが、やはり基本的な性格は押さえておきたい。
今夜は他に客が訪れる気配がない。
だらだらと二十年もシェイカーを振っていれば、そんな勘が身についてしまう。
たまにはいいだろう。ふたりの了解を得て、自分のためにギムレットをつくった。
私が飲もうとすると、あらぬ方を眺めていた御両者が手にしたグラスを軽くさしあげてくれた。
乾杯。
ぜんぜん商売にならない。
まあ、いい。こんな夜もある。
甘ったるいカクテルのことは、とりあえず忘れよう。