11月23日 あと一歩の夜


 入ってきた瞬間に、どういう状況かありありとわかるカップルだった。
 男が気を遣いすぎている。あと一歩、と、いったところか。
 女の方は、男の思惑を充分に察知しながら、焦らして愉しんでいる。

 男はギムレットを注文し、女の意向をうかがった。女は決めかねている。甘いのがいい、と言いながら、メニューを眺めている。
 こういうときは、男が決めてしまうほうがいいと思うのだが、彼にはできないらしい。もっとも、できるくらいなら、酒の力などを借りずに落とすのだろうが。

 私は、助け船を出した。甘いカクテルがお好みでしたら、モッキンバードなど、いかがでしょう。緑色の綺麗なカクテルですよ。
 こんなときは、ひとつしか名前を挙げない。選ばせると、また考え始めてしまう。
 女は、それをください、と言う。あっけなく決まる。そんなものだ。
 テキーラを多めにして、つくった。
 私もたまには民事に介入する。私は常に、ギムレットを注文する客の味方だ。

 その後、モスコー・ミュールを経て、ビトウィーン・ザ・シーツまで持っていった。ブランデーベースまで辿り着いた。あとは、君の力量次第だ。検討を祈る。

 出ていく女の足もとがおぼつかない。
 うまくいったら、後日また二人でやって来るだろうか。


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