151 97.11.30 「子供にはわからない」
不覚であった。なぜこんなにも素晴らしい番組の存在に気づかなかったか。
日曜日だからといってのんべんだらりんと昼前まで眠っていてはいけなかったのだ。私は深く反省している。スクープくん、すまぬ。私は間違っていた。
NHK総合で午前八時半より放映されている「週刊こどもニュース」が、私を後悔させている。
ニュースというものを子供にもわかりやすく解説しようという趣旨の番組らしい。子供たちをスタジオに招き、解説委員の要職にある池上さんが世の中に勃発している出来事をわかりやすく解説してくださる。これがたいへんわかりやすく、私も子供であることを再確認できて嬉しいのであった。ニュース番組を見ていてどうもぴんと来ないことが、たちどころに理解できてしまうのである。
「世の中まとめて一週間」というコーナーに、この番組の有難さが端的に現れる。ビデオ映像を背景にこの一週間を駈け足で振り返るというありきたりの企画だが、キャプションやナレーションがひと味違うのであった。
山一証券自主廃業のキャプションは、「山一、仕事やめます」である。わかりやすい。スクープくんというアニメ豚のキャラクターはこの番組のあちこちで謎の愛敬を振り撒いているのだが、このコーナーではナレーションを担当する。スクープくんによれば、自主廃業とは「自分で会社をなくすこと」なのであった。なるほど。私は膝を打った。スクープくんはなおも、山一証券が「仕事が続けられなくなった」と冷たく決めつけるのであった。
「徳陽シティも仕事やめます」と、このネタは続き、スクープくんは「銀行の仕事を続けるお金がなくなりました」とミもフタもなく断ずるのであった。「ことここに至るには、一言では言い尽くせない艱難辛苦があったのだ」と憤る徳陽シティ銀行関係者もあろうが、スクープくんはまったく意に介さず、「お金がなくなりました」で済ませてしまうのであった。ロールプレイングゲイムで「主人公は死にました。もう一度最初から始めますか?」などと言われている気分になる。大した問題じゃないんだな、と錯覚しそうな自分がこわい。
APECの意義についても、スクープくんは解説してくれる。いやはや、これはわかりやすかった。「アジアのあちこちで経済がうまくいかなくなっている問題を話し合う」のが、今回のAPECである。私はようやく理解できた。それは大切なことである。そんな大切なことだとは知らなかった。あちこち、である。うまくいかなくなっている、のである。「話し合う」のは大切なことなのである。
「週刊こどもニュース」の構造的欠陥は、NHKらしく堅めのニュースばかり扱うことで、この点、子供の私としては不満である。なんにでも興味を持つのが子供である。「福助さん、うそをつく」といったネタは扱わないのであろうか。「風邪をひいたといって仕事を休んだ福助さんでしたが、本当はよっぱらい運転でつかまっていたのでした」などとスクープくんに語って頂きたいと思うが、やはり無理な願いなのであろうか。
そのうちに「週刊こどもニュース」は終わり、「日曜討論」が始まった。難しい顔のひとが出てきて難しいことを喋っている。世の中はなんだか大変なことになっているらしい。しかしやっぱり子供には理解できないので、早々にチャンネルを変え、「ゲゲゲの鬼太郎」といったものに見入る私なのではあった。
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