128 97.08.17 「昆布を仰山」
こぶへい、ときたか。そりゃあ、わかりやすいなあ。
なお、って、いきなり「なお」もなかろうかと思うが、なお、この稿において「こぶへい」とは、合同酒精株式会社から発売されている昆布焼酎「こぶへい」を指す。三平の長男ではない。
そりゃ、林家こぶ平だって。
誰もツッコんでくれそうにないので自主的にツッコんでみました。なにか、自慰もここに極まれりといった挫折感が漂い、私は泣いています。ま、気にするな。俺も気にしてないから。って、それじゃ私と俺は違う人間みたいですがな。
ま、ひとは誰でも多重人格。
昆布からも焼酎ができるのか。そりゃまあ、できるだろうなあ。できるだろうけど、意表をつかれた。しかも、合同みたいな大手が。日高町漁業協同組合が全額出資した例えば株式会社ヒダカが製造販売しているというならわかる。そんな会社があるかどうかは知らんけども、地焼酎というスタンスならわかる。物産品なら、わかる。いきなり、なにゆえに合同か。勝算ありと見たか合同。この機を待っていたのかゴードー。
とはいっても、昆布焼酎なら呑むね私は。焼酎の場合、蕎麦や胡麻を愛好しておる私だが、昆布には琴線をくすぐられましたよ。ましたとも。
私が毎朝、根昆布水を愛飲しているのはあまり知られていないが、事実である。べつに身体のためを思っているわけではなく、単にうまいので習慣化しているにすぎない。深酒の翌朝などは特に美味に感じる。五臓六腑ばかりか爪の先まで昆布が染み渡る心地がえも言われぬ快感を私にもたらす。
味噌汁のだしも昆布が基本だ。煮干し派とはしばしば軋轢を起こす。自分は昆布から産まれたのではないか、といった疑念を時折抱くくらい、あまりに多量の昆布を摂取している。昨今では、成年男子が一日に必要とする摂取量の実に7.83倍の昆布を摂取しているとも言われる私だ。そのうちに腋の下あたりから昆布が生えてくるのではないかと期待しているが、昆布にも昆布の事情があるらしく、なかなか実現には至らないようだ。
そんなささやかな幸せにふかふかとくるまってうとうとと惰眠を貪る毎日に、突然、昆布焼酎の御乱入だ。こぶへいが一席伺いに来たのである。ここはひとつ、受けて立たねばなるまい。
呑まざるをえない。
天が私を試しているのだ。雄々しく立ち向かいたい。
酒を呑むのにそんなにも理由が必要なのか、といったヒハンもあろうが、そういうことではないのである。これは未知なるものへの挑戦に他ならない。私の裡に勃然と湧き起こったフロンティアスピリットが、眼前に立ちはだかる新たな壁を乗り越えるべく蠢動しているのだ。ただ単に酒を飲みてえだけじゃねえか、といった下世話なヒハンは厳に控えていただきたい。
つまるところは、微かな昆布香がするものの、ありきたりの焼酎ではあった。甲類は特にその傾向が強い。こぶへいの場合は「甲類乙類混和」といった氏素性を自ら明らかにはしているのだが、やはり特に癖のない焼酎ではあった。
しかしながら、仄かな昆布の香りには高い評価を与えたいと思う。これはよかった。たいへんよかった。いやまあ、もう酔っぱらっちゃってるから、なんでも誉めちゃうんだけどさ。
これこれ、そこで、ほらほらやっぱり酒ならなんでもいいだろおめえは、などと言っている君、そういうことではない。なんだかわからないが、そういうことではないのである。
私がなぜかくも深酒をなすかというと、明朝の根昆布水が愉しみであるに他ならないのである。
のである。
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