071 96.10.10 「サウンド・オブ・サイレン」
ゆうべTBSで森田さんが解説していたんですが、体育の日の本日は、統計的には晴れの特異日でもなんでもないそうです。びっくり。そりゃないでしょそれは。それじゃ単なる民間伝承じゃないですか。困るのよそれは。日頃、私がエラそうに知ったかぶりをしてぽたぽたと披瀝するウンチクのひとつが特異日なんです。いやあ、まいっちゃったなあ。東京オリンピックの、ばか。
これまで特異日について滔々と私に語られた皆さん、ごめんね。私は間違っていました。たいてい間違ってますけどね。あんまり反省もしてないですけどもね。とにかく、ごめんね。ああ、すみません、私、謝れば済むと思ってます。ごめんね。
だから、ごめんね、って、言ってるだろっ。はぁはぁ。
しかし森田さんはいいひとなので、体育の日は降雨のない特異日という情報を授けてくださるのでした。ありがとう森田さん。
本日、そちらでは雨が降っていますか。こちらでは雨も雪も血の雨も降っていません。晴れたり曇ったり、ところにより選挙カー。
気象に特異日があるのだから、当然、一個人にも特異日が訪れますね。すべての約束がキャンセルされたとか、やたらと電話がかかってきて一日じゅう話し続けたとか。一日で17人を刺し殺したとか、ま、そういうような。
昨日の私はサイレンの特異日でした。めったやたらとサイレンを鳴らした緊急車両に遭遇しまくりました。
出勤時に、まず2台。後方でいきなりサイレンが鳴ったかと思うと、今しがた私を追い抜いていった車がスピード違反で御用となりました。遅刻しそうだったのかなあ。しばらくして緊急車両には似つかわしくない青い車が黄色いパトランプを回しながら、対向車線を通り過ぎていきます。ガス会社のパトロールカーのようです。ガス漏れ事故みたい。サイレンを鳴らしてるのを耳撃したのは初めて。ゑゑと、最初に目撃と書いて、一字だけ直してみたんだけど、やっぱり変だな。ま、いいや。気にしない気にしない。
んでもって、パトロールカーを略したのがパトカーであったはずだけど、警察のアレしかパトカーと略さないのかなあ。どうなってるんだろう。建設会社で保有してるパトロールカー、社内ではパトカーって呼んでいたりするのかな。恐れ多いとか胸糞悪いとかの理由で、断じてパトカーとは呼ばなかったりするのかなあ。気になるなあ。ロールカーって略してたりして。
シゴト中には7台に遭遇。勤務時間の半分の時間を運転に費やしていたという事情もあるけど、多いよなあやっぱり。7台とはいっても、事件としては4件。火事で消防車が3台、交通事故でパトカーと救急車が各1台。火事は煙が道路いっぱいに漂っていたし、交通事故は血が道路いっぱいに、あ、いやいや、これ以上は語りません。
その他に、信号無視した車を追走するパトカーが1台と、救急病院を求めて疾走する救急車が1台。いやはや、耳が異様に敏感になっちゃいました。サイレンの幻聴が聞こえてしょうがない。余録としては、緊急車両の接近を察知して路肩によけるのがうまくなったな。こんなこと上手になってもしょうがないんだけどさ。
夕方、カイシャに戻って本日の出来事をかくかくしかじかと話すと、同僚達にさんざん脅かされましたよ、もう。
曰く、「次はオマエの番だな」
曰く、「帰る途中で、パトカーに捕まるな」
曰く、「いや、交通事故を起こして救急車で病院に担ぎ込まれるのではないか」
曰く、「いやいや、ウチに帰るとアパートが火事になっているんじゃないか」
そんなに苛めるなよお。私がいったい何をしたっていうの。勘弁してよ、もう。すっかり弱気になっちゃう私。
「あんぜんうんてん」と5億6千万回ほど唱えながら、あらゆる交通法規を遵守しつつ、そろそろと車を運転して帰りましたよ、私は。近づくにつれて、煙が見えやしないかと、ウチの上空を注視しながら。そうさ、オレは小心者さ。
アパートは火事になっていなかった。よろよろと車を降り、ぐったりと車に背中を預けて吐息をついていると、いきなり傍でサイレンが鳴りました。
いっしゅん喉から飛び出した心臓を呑み下しながら音のした方を見やると、タクミちゃんがおもちゃの銃を構えてた。
おいおい。
引き金をひくとサイレンが鳴る仕掛けになっているらしい。タクミちゃんは、隣家の幼稚園児で、妙にウマが合うので時々遊んでいる。私の感性は幼稚園児並と誉れ高い。
「タイホするぞ」
タクミちゃんは、高圧的に命令するのでした。
私は胸に手を当ててみました。私の心臓は凄まじいスピードで血液を送り出してましたよ、もう。どくどく、どくどく、どっくどく。
なあ、タクミちゃん、今の私に、それはシャレにはならんのよ。
「タイホしないでください。お願いだから」
私は諸手を挙げて、そうお願いしましたですよ。
タクミちゃんは、満足げにうなずきましたね。
「よ~し、みのがしてやろう」
ほっ。
私は部屋に入り、後ろ手にドアを閉め、その場にへたりこみました。安堵のあまり、不覚にも涙がこぼれました。
そんなふうにして思いだしたくない昨日は終わり、雨が降らない特異日を迎えました。
今朝は、サイレンの音に苛まれる悪夢にうなされて目覚めました。
カーテンを思いっ切り開け放ちながら、それがどんな朝だとしても、迎えられたらそれは幸せなのだと、実感しました。
朝は、いいですね。
いいですよ、朝は。ほんとに。
森田さんの言うとおり、やっぱり雨は降っていないし。
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