12月12日 奢られる夜


 泥酔した客がウーロンハイを飲ませろとしつこい。
 この店でそんなものを飲めるわけがない。
 いくらなだめてもはぐらかしても、酔漢はますますウーロンハイに固執する。大声で喚く。
 仕方がないので、叩き出した。

 ふうん、キタちゃんも怒るんだ。常連が、にやにや笑っている。
 私は苦笑した。それはまあ、怒ることもある。

 それしか選択がないのなら、邪教に入信することはできるだろう。無差別大量殺人もできるだろう。最愛の人を絞殺することもできるし、無二の友を裏切ることさえも可能だ。しかしウーロンハイはつくれない。つくらなければならないのなら、私は即座に死を選ぶ。
 ひとつくらい、こだわっていることがあっても、許してくれる誰かはいるだろう。誰も許してくれなかったとしても、私は許す。
 不倫など絶対できないという人はいるだろう。衿のあるシャツを着られない人もいるだろうし、ピーマンを食べられない人だっているはずだ。ウーロンハイを嫌悪する男がここにいたっていいだろう。

 実は、つくり方を知らないだけなのだが。

 飲みなよ、奢るから。まだにやにや笑いながら常連が慰めてくれた。
 私は、ありがたく好意を受けることにした。ダブルと呼ぶにはあまりに多量のワイルドターキーを、グラスに注いだ。
 常連のにやにや笑いが、苦笑に変わった。


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