12月2日 白い喉許の夜


 いきなり来られても、困る。そちらは覚悟の上で来るのだろうが、とつぜん来られた私には心の準備ができていない。
 その色白の全裸を知っている女が、一年ぶりに現れて、いきなり目前のスツールに腰掛けて、ターキーをダブルで、と言う。
 あのときはありがとう、と、微笑む。もとの鞘に納まったの、と、微笑む。

 あの夜の彼女は荒れていたが、いまは穏やかな表情で、右頬に刻まれるえくぼが幸せそうだ。
 あの日にひいていた風邪は、治ったらしい。
 私は、うつされた風邪に難儀した。二日間、店を閉めて、ふとんにくるまって唸っていた。
 その復讐をしたって、いいだろう。ダブルどころではない分量のワイルドターキーを注いで、さしだした。

 もう、酔わせたって、駄目なのよ。彼女は苦笑する。
 酔わなくたって駄目でしょう。私も苦笑する。
 いい夜だったな。そう呟いて、彼女は微笑した。
 私にとっては、よくはなかった。風邪をうつされて二日間、店を閉めたのだ。死活問題だった。

 記憶はいつも優しくて、困ってしまう。
 いい夜でしたね。私は、そう言って、チェイサーをさしだした。

 彼女はのけぞって、笑い転げた。
 白い喉許が眩しくて、やっぱり困ってしまう。


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