11月17日 夜


 カウンター席しかない。スツールが八つ。
 細長い店だ。
 扉を開けると、右側にカウンター。中に、私がいる。私しかいない。そろそろ不惑の私ひとりしかいない。
 左側は壁。レンブラントの贋作が掛かっている。

 ツマミはナッツ類しか置いてない。私ひとりで最高八名の客の注文に応えなければならない。料理をしている暇はない。
 カクテルはそれなりに対応できるだろう。多少の自負はある。
 ウィスキーはバーボンしかおいていない。ウィスキーベースのカクテルを注文されると、たいてい期待を裏切るような代物をつくってしまう。私は旨いと思うのだが、確かにバーボンベースのシャムロックはいささか問題かもしれない。
 ビールやワインも仕入れてはいるが、カクテル用だ。それをくれと言われて断るのに難儀する。

 とりあえず、そういう店だ。
 午後六時から午前二時まで営業しているが、閉店の時刻は流動的だ。
 そのうち朝が訪れるのはわかっているが、やっぱり夜は長い。


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