035 96.06.15 「噂の鼻パックその後」

 その後の経過報告です。前回の作文について、何通か感想のお手紙が殺到いたしました。空前の反響です。この地方では古くから、一通のメイルが届いたら三十人の読者がいると思え、と言い伝えられております。どういう地方なんだ。たくさんの方にお読み頂きまして、ありがたいことです。好評につき、続編です。
 連日の使用は、弊害以前に面白くないことがわかりました。ちっとも汚れが取れないんです。一度使用すればしばらくは使用する必要がない、と、そういうことのようですね。つまんないので、頬にも使ってみました。ある程度の汚れは取れましたが、あの、魂を揺さぶられる感動は甦ってはきませんでした。ああ、僕はもう、けがれあるあの頃には戻れない。大人になったんだね。ああ、よしよし。
 汚れを溜め込むのがよろしい、という御報告がありました。我慢に我慢を重ねて、一気に使用に及ぶ。使いたくても使わない。ひたすら耐える。耐えに耐えて、大量の汚れを一息に剥ぎ取る。それが嬉しい。なんとも鬼気迫る執念で、手紙を読んだときには呆れましたが、今ならその気持がわかります。わかりますとも。私も、ただいま汚れ貯蓄週間です。
 花王ばかりではない、という報御告もありました。ウテナから「ポアズ」という商品が出ているとのことです。プロ野球ニュースの時間にCMをやっているとのありがたい御注進です。確認しました。あ、観たことあるよこれ。というか、鼻パックのCMはこれしか観たことがありません。「気持いいほどよくとれる、気持わるいほどよくとれる」ってやつ。ウテナ関係者のみなさま、ごめんなさい。私、コンビニで花王の「毛穴すっきりパック」を発見したとき、無意識にこのCMを思い浮かべていました。「あ、これがあのCMのやつだな」と思って、「毛穴すっきりパック」を手にしました。
 つまり、何度かCMを観たというのに、「ポアズ」という商品名は私の記憶に留まることはなかったわけです。ウテナのネイミング戦略の失策ですね。まったく新しいコンセプトの商品に、こんなにもあっさりしたネイミングはなかろうと思います。「気持いいほどよくとれる、気持わるいほどよくとれる」というコピーがハマっちゃっただけに、ますます商品名の影が薄い。「毛穴すっきりパック」の堂々たる響きに敵うわけがありません。ウテナは、鼻パックがここまで売れるとは読みきれなかったんでしょうね。残念でした。
 ピザーラのCMを観てピザが食べたくなって、近所のピザーラじゃない宅配ピザ屋さんに注文しちゃうという話を思いだすなあ。「気まぐれコンセプト」に載ってた。「ポアズ」のCMを観てさっそく買いに出かけたら、「毛穴すっきりパック」が真っ先に目に入ったのでそれを買い求める、という構図。これからも各社から、新製品が出てくることでしょう。ネイミングやデザインにも注目ですね。
 お手紙に戻りますが、「鼻パック友の会」を結成しましょう、という冗談なのか本気なのかわからない御提案がありました。なんのつもりでしょうか。呆れましたが、どういう展開が考えられるか無意識に検討してしまう自分にも呆れます。
 まず、お約束のホームページをつくりますね。鼻パックホームページ。会員の報告によって構成されます。「文集・私の鼻パック体験記」や「フォトギャラリー・剥がされた私の汚れ」は、外せません。「カタログ・これが日本で買える鼻パック全リスト」なども充実させたいところです。「掲示板・この鼻パックが一押し」では、各社の製品を試用した会員の忌憚のないレポートが続々と報告されます。
 メイリングリストなども運用され、鼻にしか貼らない保守派とどこにでも貼っちゃう革新派との間で議論が高まったりしますね。オフラインミーティングなども催されることでしょう。飲酒などはせずに、その場で鼻パックを貼り、その成果を競い合ったりするわけです。得体の知れない新興宗教のような不気味な状況を呈します。そういう場で出会った男女が、いつしかお互いに鼻パックを貼り合う仲になることもあるでしょう。
 そうこうしているうちに「鼻パック友の会」は大きな集団となってしまい、分裂したりしますね。執行部の専横に批判的な在野勢力が大量脱退し、「庶民のための鼻パック文化の確立」を旗印に「新党はなさき」を設立する、といった騒ぎになるのが、やはり集団の美しいあり方でしょう。そんなふうにして、当初の存在意義を喪失した「鼻パック友の会」は、鼻と散っていくわけです。
 しかしまあ、私というものは、もっと他に考えることはないのでしょうか。

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