12月25日 月見酒の夜
店に向かう途中で、満月を見た。東の空の低い位置にあり、ずいぶん大きく見える。薄いオレンジ色だ。
開店前に、昨日さんざん世話になったカクテルブックを開き、あの月の色のカクテルを探した。コペンハーゲン。アクアビット・ベースのこいつがいちばん近い色をしている。早速つくり、端の席に置いておいた。
訪れる客は、無人の席に置かれた薄オレンジ色のカクテルを不思議そうに眺め、しかし誰ひとりなにも聞いてこない。陰膳のような雰囲気を醸し出してしまったらしい。
やがて、ついに常連のひとりがたまりかねたかのように聞いてきた。あれはなにか。
私は正直に答えた。先ほど目にした満月の色を、たわむれに再現してみただけです、それ以上の意味はありません。あまり深読みするもんじゃありません。
なんだ、そういうわけなのか。彼は肩透かしを食ったようだった。じゃあ、俺にもその満月をくれないか。
満月じゃありません、コペンハーゲンです。
そう、そのコペ。
私は苦笑しながら、コペンハーゲンをつくって彼にさしだした。
そんなやりとりを見ていた他の客も、つられたようにオーダーしてきた。カウンターに、たちまち5杯のコペンハーゲンが並んだ。
こういうのも月見酒っていうのかね。ひとりが言った。
いわないのではないか。